[医療現場の失敗] 休診日の出勤でも割増賃金が付かない!?

残業時間の計算や申請方法は各クリニックによって異なる。残業申請書を必ず提出させるところもあれば、タイムカードで計算するところもある。厳しく内容を確認する場合もあれば、辞めないように多少のことは認めている場合もある。対応はそれぞれで異なるが、基本的なルールを決めて運用するのが基本。
クリニックの勤務日数は5日で土曜日が半日と、実質的には4.5日のところが多い。休診日は水曜日または木曜日と日曜・祝祭日とする場合が多く、週の労働時間は40時間を下回ることもある。しかし、医療機関同士の競争が激しくなって、患者のニーズを考慮し、日曜日や夜間、早朝の診療を実施するところも出てきた。中には、週6日診療をしているところや、医療法人でチェーン化しているクリニックでは365日診療なども見られるようになった。

 

■休日には「法定休日」と「法定外休日」がある

働く側にとって休みの多さは重要な問題である。雇用条件としては週休2日制を取るところが多いが、労働基準法上の休日の扱いは法定休日(4週間を通じ4日以上の休日を与える就業規則を定めている場合を除き、毎週1回定めなければならない休日)」と「法定外休日」に分かれており、法定休日として設定されるかどうかで休日出勤の割増賃金の扱いが異なることに注意を要する。

法定休日に出勤した場合には、時間給の1.35倍の割増賃金を支払わなければならない。例えば、週休2日制の診療所で日曜日や祝祭日の当番医などをする場合には1.35倍の割増賃金や手当が支給される。一方、平日の休診日に出勤する場合は法定休日扱いとはならず、通常の賃金を支払えば問題はなく、週の労働時間が40時間を超えるようであれば、その超えた時間に対して1.25倍の割増賃金を支払えばよいことになっている。
しかし、就業規則で法定休日とそれ以外の休日を細かく規定していることは少ない。雇用契約書にも法定休日と法定外休日を分けて記載する例もほとんどない。そのため、日曜日を法定休日と決めていても、スタッフの認識はほかの休診日も同じ休日という感覚で、時にはその取り扱いが原因で仕事に対する意欲をそぐ結果となり、トラブルに発展することもある。
最低賃金の上昇や派遣社員の普及などの影響もあり、医療業界でも中途採用やパート職員の給与が予想以上にアップしている。採用する側も以前の流れのままに、「この程度でいいのでは」と対応せずにいると、慣れて戦力になったころに雇用条件の良いところへ転職されてしまうこともある。

 

■平日の休診日を利用し、集団予防接種を実施

開院して3年の内科クリニック。休診日は木曜日、日曜・祝祭日と土曜日の午後で、労働時間は週40時間。外来患者数は1日平均40人を超え、経営も軌道に乗ってきており、今後も患者増が期待できた。スタッフは事務2人(うちパート1人)、看護師3人(うちパート2人)で、通常はスタッフ3人体制で診療していた。地域にも認知されるようになり、会社の健康診断や産業医などを依頼されるようになっていた。診療圏外にある会社からの依頼でも問題がなければ受託。来院してもらえない場合には平日の休診日を利用して院長が出向いて対応していた。
ある知人の紹介で某会社からインフルエンザの予防接種の依頼があった。人数も60人と多い。クリニックにとっては大きな収入で、産業医になれる可能性もある。何とか受託したいと考えた。診療圏外の会社だが、二次健診や病院の紹介などにも十分に対応可能な距離だった。毎日4-5人ずつクリニックに来院してもらうこともできたが、日によって患者数が異なるので待たせてしまうことも考えられた。そこで、スタッフと相談し、年に1度ということもあって会社に訪問して1日で全員に実施することになった。

訪問日は平日の休診日である木曜日に設定。会社に出向き、予防接種を実施した。事務スタッフは必要ないので、看護師3人と院長とで訪問。業務時間の合間を利用して受けてもらう形で、10時から3時(休憩1時間)に実施。特に問題もなく終了した。会社の担当者からは「今後もお願いします」と喜ばれ、産業医の就任要請もあり、クリニックにとっては良い結果となった。どのようなことでも患者増につながることは積極的に対応することが必要である。

 

■休日出勤の給与計算でクレーム発生

給与の締め日が来て、給与計算となった。これまで日曜日を含めて休診日の診療は一度もなく、スタッフが出勤することもなかった。そこで、院長と休診日の出勤をどのように取り扱うかを相談。労働基準法上問題のない形で処理しようということになった。日曜日を法定休日として設定すれば、木曜日の出勤は法定外休日扱いにできる。週の労働時間が40時間を超えなければ割増賃金も発生しない。常勤の看護師は代休を取得してもらったので休日出勤扱いにはならなかった。パートの看護師は通常週3日の勤務で、週の労働時間は40時間を超えていないため、通常の時給計算とした。休診日だが、予防接種で忙しかったわけでもないので、この取り扱いで全く問題ないと考えていた。

給与支給日の数日後、院長から連絡があった。休診日に出勤した時間についてパートの看護師から「休日の割増手当が付かないのはどうしてですか」と質問があったという。説明さえすれば簡単に理解してもらえると考えていた。クレームを付けているのは40代後半のパートの看護師Jさん。説明に行くと、雇用契約書には休日が木曜日と日曜日と記載してあるので、木曜日の出勤は当然休日扱いとなるべきだという話だった。労働基準法上は全く問題がない方法であることを説明したが、「休日出勤なのですから何か対応があるべきだ」と譲らなかった。「労働基準監督署にも確認してありますので、問題がないことだけは理解してください」と伝え、話を終えた。

その後、院長と話し合った。労働基準法上は全く問題ないので、割増賃金を支払わなければならない理由はない。クレームがあったからと支払うのも今後のためによくないと考えた。ただ、Jさんの態度も気にはなった。看護師を代表して話している雰囲気だった。

そこで、賃金で支払う以外の方法はないかという話になった。それならと休診日に出勤した謝礼として商品券を用意することにした。実働4時間なので、それに見合う2000円程度の金額とした。指摘された雇用契約書の休日の記載方法も再検討することになった。これまで一律に休日として記載していたところを法定休日の記載も追加することにした。次回の昇給のタイミングである雇用契約書の更新時に変更することとなった。こちらはささいなことと考えていても、スタッフにとってはモチベーションにつながることなので、残業や割増賃金の件はお互いの確認が重要といえる。

院長から商品券を3人に配布してもらったが、クレームを付けた看護師はそれでも納得がいかない様子だった。そこまでのことかと思い、これ以上説明しても無駄だと考え、感情が冷めるのを待った。その後、ほかのスタッフから「Jさんは今後、休診日は手伝わない」と話していると聞いた。労働基準法通りに処理をしている。悪質なことをしているわけでもない。スタッフの考えを配慮しながら対処したつもりでいた。

 

■休診日の出勤がきっかけで不満が募り、退職

それから、何かにつけてJさんは待遇に対する不満を口にするようになった。「時給が安い」「午後の勤務が多過ぎる」-。休診日出勤のことがきっかけでそうなったように感じたが、これ以上の対応はすべきでないと判断していた。何かがきっかけで不満は大きくなる。何か心を満たす方法が必要と感じていた。

数か月後の雇用契約更新時、Jさんから退職願が出された。退職理由は一身上の都合だったが、実際には待遇に対する不満が理由だと同僚には話していた。そのようなことであれば引き留めてもしょうがないと考え、退職時期を相談した上で受け入れることにした。仕事は問題なくできたので惜しい気もしたが、待遇に対する不満が多いスタッフは、ほかへの影響も大きい。ただ、あらかじめ休日の手当てについて検討し、説明しておくなどの配慮が足りなかったことも事実だった。

特に問題なく仕事をしていても何かのきっかけで不満が次々と出てくることがある。特に賃金に対する問題は大きな不満となり、この程度のことと考えていると解決できにくいトラブルに発展することもある。労働基準法上問題がなくても、気持ち良く働いてもらうには柔軟な姿勢も必要である。緊急時の出勤、時間外や休日出勤などは、より評価されているとスタッフが理解できるような対応が必要といえる。人件費が増えないようにと考え過ぎるとスタッフの不満、退職の原因となりやすい。小さなことでも給与に反映させるような姿勢が辞めないスタッフづくりとなることも理解しておかなければならない。

 

 

 

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