[医療現場の失敗]上から目線の言葉遣いで診療トラブルに発展

診察室に入ると、患者に付き添ってきた家族の男性が怒っていた。「もっと丁寧な説明があっていいのではないですか!」と声を荒げている。事情が分からず、院長の顔を見ると、気まずそうな雰囲気。「まあまあ」となだめながら、「どうしたのですか?」と聞くと、「年寄りだから分からないと思ってばかにした説明して!」と食ってかかってくる。怒り方が尋常ではないので、「ちょっと向こうで話しましょう」と誘うが、なかなか言うことを聞かない。何とかなだめて、患者とその家族を会議室に連れて行った。

トラブルの原因は診療行為に対する説明だった。なかなか症状が改善しないので説明を求めたところ、「現在の症状からの大きな改善が難しい。これ以上の治療方法はなかなかない」と説明したが、それが「これ以上どう治療しろというのだ」というような話になったらしい。

「おやじに聞いてもはっきりしないので、付き添って病状を聞きに来たのに、こんな患者をばかにしたような言い方ないでしょ」と訴えられる。「院長がそのような言い方をしたのであればよくないことです。ご迷惑をお掛けしてすみません」と謝罪した。その後、ひと通り苦情を聞き、診療行為自体に問題はないことを確かめ、「後ほど院長から話を聞いてご連絡させていただきます」と言うと、「納得できるように対処してほしい」と言って帰った。

患者は「治してほしい」と思って来院するが、上から目線の説明が続くと我慢も限界。「もう2度とかからない」と思い、帰ることもある。医療にかかわる私でさえ、そのような経験が何度かある。患者側からすれば「態度の悪い傲慢な医師」に映る。今は、ささいなことでも苦情やトラブルになりやすいので、接遇やコミュニケーション力が問われる時代。特に都心部では「診てやっている」という態度では、技術力があってもなかなか通用しなくなっている。

 

■保健所や医師会に苦情を言うぞ!

院長に確認したところ、「そのような言い方をしたかもしれない」と話す。そばにいた看護師に確認すると、「これまで患者さんには何度も説明していたので、『また聞くの』という感じで見下すような言い方になっていました」と話す。このようなことは初めてではなかった。

とにかく早く決着しなければならないと考え、院長に、一緒に謝罪に行く了解を得て、患者に連絡を取った。電話口には怒鳴った患者の家族が出た。「お伺いして説明させていただきます」と話すと、訪問を了承し、「納得するような誠意を見せてください」と言って電話を切った。当初は、院長と一緒に伺って謝罪することで事態を収めようと考えていたが、「誠意を見せてください」という言葉が気になった。まずは私1人で菓子折りを持って様子を見に行くことにした。

約束した日時に訪問し、「言葉遣いに関して不快な思いをさせたことは本当に申し訳ありません」と切り出すと、「父親は優しいから何も言わないけど、あまりにばかにした態度だよね。これまでにも同じようなことがあったと聞いている。医者だから何でもありではないよね」と怒りをあらわにして話す。何度も頭を下げながら話を聞いた。

話が途切れたところで、「院長もこちらに伺って謝りたいと申しておりますがよろしいでしょうか?」と切り出した。すると、「それもよいのですが、誠意を見せてください」と言う。「やはりそう来たか」と思いながら、「謝罪が一番の誠意と考えています」と返すと、「もっと違う誠意の見せ方があるでしょう」とこちらから金銭的解決の話をさせようとする。「誰かに相談しているかもしれない」と思った。この場で解決を試みるのはよくないと判断し、とりあえず「再度検討してみます」と含みを持たせて帰ることにした。

帰り際に、「場合によっては保健所や医師会に苦情として訴えることも考えている」とくぎを刺された。丁寧に頭を下げながら、「変なトラブルに巻き込まれた」と思い、ため息をつきながらクリニックへ戻った。


■納得できる「誠意」とは?

方法は幾つか考えられた。

(1)いくらかの迷惑料を払って念書を取る
(2)おわびはするが一切の要求は受け付けない
(3)弁護士など第三者に依頼する

少なくとも(1)の選択はなかった。金額が少ないと吊り上げられる可能性がある。そもそも診療行為自体に問題はないので支払う理由もない。(3)であればクリニック側は一切タッチせず解決できる可能性は高いが、費用がそれなりにかかる。また受けてくれる弁護士がいるかどうかも分からない。

まずは(2)で対応し、それでも脅されるなどのトラブルに発展するようであれば(3)でいくのがよいと判断し、院長に相談した。(2)のリスクは保健所と医師会に苦情を言われることだったが、苦情を持ち込まれても大きな問題にはならないだろう、またそこまで患者側が行動を起こす確率は低いだろうと考えていた。

早速、訪問した翌日、患者の家族に電話連絡を取った。「考えてもらえましたか?」と言うので、「私どもでは今後このようなことが起きないよう、院長ともども反省し、今回の件について謝罪することが一番の誠意だと思っております」と答えると、「そんなことで納得するはずないだろう。こちらが考えるような納得できる誠意がなければ医師会や保健所に苦情を話すけどいいの?」と脅してきた。

「納得できる誠意とは何でしょうか?」と聞くと、「おわびのお金とか…」と予想通りの回答。「それは難しいです」と言うと、「金額の多い少ないではないから」と催促する。「謝罪以上のことはできないのでご理解ください」と返事をすると、「後で後悔することになるよ」と言って電話を切られた。

予想していた展開だった。向こうは金銭的な解決を望んでいたのでこのような結果は必然だった。院長にいきさつを報告すると、「すまない」と言って頭を下げた。これで患者家族からのコンタクトはなくなると考えていた。

 

■保健所や医師会からの連絡

数日後、再度、患者家族から連絡があった。金銭的解決に応じるかどうかの最終確認だった。「今回は謝罪するということで何とかご理解ください」と改めて言うと、「そう。じゃあ駄目だな」と言って電話を切った。

これ以上の執拗な金銭の要求や脅しめいたことがあれば、弁護士または保険会社に相談するしかないと腹をくくった。その後、連絡は途絶えた。これで落ち着くと思ったが、1週間ほど経過したころ、保健所から診療についての苦情電話があったと連絡が入り、状況を説明することになった。内容は理解してもらったが、「くれぐれも気を付けてください」と念を押された。医師会にも苦情がいった。事務長から苦情内容が伝えられた。こちらから詳細は説明しなかったが、その後、医師会から各医療機関に苦情内容について触れた患者への説明や対応の注意喚起を促す書類が配布された。

医師もストレスのたまりやすい職業である。常に平常心で診療することはなかなか難しい。患者によっては言葉の受け取り方が違うと分かっていても、ついつい上から目線で話してしまうこともある。会話一つでトラブルに発展する。たちの悪い患者に当たると、ちょっとしたことでも医療ミスだと付け込もうとする姿勢が見られることもある。どんなささいなトラブルでも簡単に考えず、全力で解決しようとしなければならない。院長1人ではなく、保険会社などに相談しながら慎重に対応するべきだ。年々コミュニケーション力が問われる時代になった。仮に金銭による解決方法を取ったとしても、解決に至るまでの精神的なダメージは大きい。

クリニックの診療は「守り優先」。付け込まれる隙をつくらないようクリニック全体で言葉遣いを含めた説明力を高める対応を考える必要がある。

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