事例で学ぶ事業承継の進め方[第2回]


事例で学ぶ事業承継の進め方 〜失敗しないための理論と実践〜

第2回
事業承継先の探し方と円滑に進めるためのポイント

◆70代医師から30代医師が承継

私がコンサルティングをしている眼科院長から、医局より派遣されて来ているM医師の開業相談に乗って欲しいと連絡がありました。M医師は30代前半で、患者へのコミュニケーション力は少し足りないものの、診療は問題なくこなしています。普通に診療出来れば開業でも一定の成功はするだろうと考えられました。

相談内容は、医局長から紹介された同大学出身の先輩K院長から診療所承継を持ちかけられたので検討したいということでした。診療所の広さは 25坪、手術は行っていません。現在の患者数は一日平均30人前後で、月の診療報酬収入は約300万円前後、譲渡価格は300万円でした。検査機器は買い替えてあり、初期の設備投資は少なくてすみそうです。K院長は地域の為に残したいという意向が強いようで譲渡金額には固執していません。承継後は有料老人ホームに入居予定で引退するのだといいます。

M医師は、友人の医師と協力して医療機器会社や眼鏡店等と連携し、分院をつくって事業展開を図っていきたいといいます。その第一歩として眼科を承継し、医療法人を設立したいという意向でした。

 

◆承継の流れと手順

方法は二つ考えられます。
①医局の先輩後輩にアプローチする
②友人医師に紹介してもらう
都道府県によって医療法人の設立基準は異なります。どちらの方法をとるかによって承継の流れや手順も異なります。

 

①の場合、患者を引き継ぐためには社会保険指定申請で遡及できるような手順が必要です。


承継基本合意書締結(厚生局で遡及できる要件の確認)

非常勤として数カ月勤務

遡及要件を満たした時点で譲渡合意書締結(譲渡金支払)

保険医療機関指定日に合わせて前日閉院 → 翌日保健所開院届 → 保険医療機関指定申請(遡及願含む)

数カ月から1年間は個人診療所として運営
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医療法人設立申請(都道府県によって申請条件が異なるので注意)

医療法人許可 → 診療所開設許可申請 → 開設許可 → 診療所開設届


医療法人設立認可まで承継後1年以上の期間を要します。その間は分院展開等の話は進められません。経営状況によっては医療法人の認可申請が遅れる可能性もあり、分院開設までは承継基本合意書から2年かかることが予想されました。

②場合は現在のK院長の協力が不可欠です。医療法人の認可をとるまで1年程度必要ですが、これまでの実績から準備する書類も少なく、認可される確率は非常に高いといえます。

承継後6カ月あれば次の事業展開へ進められるため、メリットは大きいと考えられました。手順は下記の通りです。


基本合意書締結
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現状診療所で医療法人設立申請 → 医療法人許可 → 診療所開設許可申請→ 開設許可

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診療所開設届 → 合意書締結(譲渡金支払)

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管理者及び理事長変更届


どちらの方法にもメリットデメリットはありますが、 分院展開を一番に考えるのであれば②を選択する方がM医師の目的に合致すると考えられました。医療法人設立申請に関してもM医師や友人のY医 師を理事として加わることで、さらに分院展開へのステップがスムーズになります。出身大学も医局も同じで先輩後輩の間柄のため、K院長は好意的に善処してくれるというため、早速、医療法人認可申請の手続きを始めました。借入金もリース契約もなく資本金調整も上手くいき、申請後何の問題もなく認可が下り、医療法人の運営する診療所として承継することになりました。

3カ月ほどが経過し、M医師から順調だと連絡もありました。そろそろ分院開設準備の話があるかもしれないと思っていた矢先、突然K医師から会って相談したいことがあると連絡が入りました。

◆承継後、わずか1年半で閉院

相談内容は患者からの診療に対する苦情でした。「これまでの診療スタイルとの違いで戸惑っている。K医師よりM医師に連絡してもらいたい」という要望が複数の患者よりあったとのこと。K医師は70 代、M医師30代。明らかに世代も診療スタイルも異なっていたのでしょう。

承継は患者がついている点に価値がありますが、急な診療スタイルの変更は患者を減らすという側面があります。患者とコミュニケーションをはかりながら上手に自分の診療スタイルに移行していくことが求められますが、M医師のコミュニケーション不足によるところが大きかったようです。

複数患者がK医師に相談をする事態は、簡単でないことを物語っています。放置できないと考え、M医師と連携しているY理事(医師)から、診療について話し合ってもらうことになりました。K医師も助言しましたが、大きな改善が見られませんでした。

結果、患者は徐々に減って半年後には一日当りの患者数が15~20人と落ち込んでしまいました。分院展開どころではなくなり、経営状況も悪化。結局1年半で閉院する方向へ向かうことになりました。医療法人としてはM医師は理事長と管理者を辞任し、Y医師が医療法人を引き継ぎ、新たな場所で診療所を開設することになりました。

 

◆既存患者に受け入れてもらうコツ

承継されても患者はこれまで通りの診療が継続されると考えて受診するものです。一方で専門性の高い診療科目では、医療技術の進歩によって診療スタイルや治療方法が異なるのは当然のことです。新患であれば抵抗なく受け入れるのでしょうが、以前から通院している患者は簡単に受け入れることが出来ません。そこで、医師のコミュニケーション力が問われることとなります。

承継する一番のメリットは、患者継続です。「診療は何とかなるだろう」という考えでは成り立ちません。以前から通院する患者は、医師の技術力と相性を見て今後通院するかどうか判断します。承継する前の診療スタイルや治療方法を十分理解した上で、診療に臨まなければなりません。また、長く通院する患者には、医師との間に暗黙のルール的なかかりやすさが存在することもあります。患者状況の把握と診療スタイルを患者に合わせながらゆるやかに移行することが大切ではないでしょうか。

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