事例で学ぶ事業承継の進め方[第1回]その2
事例で学ぶ事業承継の進め方 〜失敗しないための理論と実践〜
第1回
事業承継先の探し方と円滑に進めるためのポイント②
◆事業承継先の見つけ方
「事業承継をしたい」と考える医師が増えているとはいえ、「自分の周りにはいない」という先生もいるでしょう。では自院を承継してくれる医師をどのようにして見つければいいのでしょうか。私が手掛けてきた案件をもとに言うと、次の5つのパターンに集約されると考えます。
①医局の先輩後輩にアプローチする
②友人医師に紹介してもらう
③非常勤医or非常勤で勤務していた医師に声をかける
④取引業者からの情報提供を受ける
⑤承継を扱う仲介業者からの情報提供を受ける
このなかでもベストなのは、出身医局や開業希望の後輩や友人、その医師の紹介、非常勤勤務している医師に持ちかけることです。お互いに知っている関係であれば、診療所の状況も話しやすく承継を進めやすいと言えます。とはいえ、これだけで見つかるとは限りません。そのため、①〜③を行うと同時に、取引業者や承継を扱う仲介業者、医師紹介会社、調剤薬局などにも持ち込んでおくことが大切です。なかなか見つからないことが多く、時間の経過に伴って自院の価値が低下することもあるため、よほど「自身がある」という場合を除いて、複数の方法を同時に進行させてください。
開業を希望する医師の多くが承継も視野に入れていることを考えれば、新規開業を扱うコンサルタントや開業関連企業にも声をかけておくのが得策です。こうした企業は大抵関係者同士が連携しており、さまざまな医師とつながっているので、ネットワークを介して承継に興味のある医師につないでもらえることもあります。診療所に出入りしている医薬品卸や医療機器卸、MRはもちろん、最近では不動産仲介業者や開業情報誌、医師紹介会社、会計事務所なども承継案件を扱うようになっています。少なくともここに挙げた人たちには声をかけておきましょう。
もともと知っている企業や関係者の場合、その企業や人となりをわかっていることとは思いますが、声をかけた企業や関係者からの紹介ということでさまざまな人が関係してくるケースもあります。どれだけ信頼できる人の紹介であっても、トラブルを回避するために、まず業務内容や担当者の承継経験、承継の進め方、情報の秘密保持などを確認する必要があります。また、確定申告や決算書は、承継先や提出する理由が明確でない限り渡さないようにしてください。
◆譲渡価格や関係者への手数料
譲渡価格は、現状の所得や患者数、医療機器設備などをもとに算出するとともに、顧問税理士や仲介業者からの評価を確認しながら決めていきます。とはいえ譲渡価格交渉では「高く売りたい」「安く買いたい」と双方で駆け引きが行われるのが常道です。そのため、担当者の能力に左右されることも少なくありません。また、土地建物や資産が多い場合、譲渡価格が高くなってしまいがちです。これが障害となって進まないこともあります。そうした場合は別途承継しやすい方法を検討する必要があることもあります。なお、個人と医療法人では承継手続きもことなります。
次に仲介業者への手数料ですが、これは本当に幅広く、譲渡価格によっても異なります。明確な基準はありませんが、トラブルを防ぐためには依頼前に確認しておくことが大切です。また、仲介業者のなかには契約にマイナスになるような情報を流さないなど、情報操作するところもあります。後日、金銭的なトラブルに発展することもあるため、必ず任せっぱなしにせず、どのような情報を提供しているのか、相手は患者層や医療機関、設備などの状況をきちんと理解しているのか、その進行を適宜確認しておく必要があります。
◆「左前」の診療所承継は難しい
事業承継先となる医師から人気の診療所はどんな診療所でしょうか。結論から言うと、十人十色ですが、年齢が若い医師ほど「所得を増やせる」「成長・発展が望める」という願望から、診療圏内の競合の状況や人口構成などを重視する傾向があります。つまり、自院を取り巻く経営環境が重要なポイントになるのです。たとえば、「競合診療所が増えた(あるいは人口が減った)ために、患者数は全盛期の半分以下に落ち込んでいる」という診療所だと、魅力を感じてもらえないし、条件も悪くなってしまいます。所得を増やしたり、成長させたりするのが難しくなるからです。事業承継をするタイミングは非常に重要です。
また、事業承継を円滑にするためには、引き継ぎがポイントになります。長年診療をされてきた院長と若い医師では、診療スタイルや処方が異なるというケースも散見されます。これらが事業承継先の医師と大きく異なると、既存の患者さんは戸惑い、離れてしまうこともあります。こうした違いを踏まえて、新たな診療体制に移行していくためには一定期間必要になります。自院の事業承継をスムーズに進めるためには、事業承継先から引き継ぎまでに、かなりの時間がかかります。不動産のように右から左へと譲渡できるものではないと理解したうえで、準備を進めていくことが大切です。